本日の映画
今回はシャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビー出演で話題の映画『スキャンダル』についてお話ししていきます。
あらすじ
誰もが名前を聞いたことがあるFOXニュース。看板女性キャスターとドナルド・トランプとの舌戦が繰り広げられる中、そこで働くある女性も一人、戦う覚悟を決めていた。
テレビ業界と聞けば、誰もが多少はきらびやかな世界を思い浮かべるものだが、やはり想像に難くなく、そこは地位や権力がモノを言い、そこで活躍できる人物はごくわずか。さらにそれが女性であるのなら…。
きらびやかな世界に長年はびこってきた深刻なセクシャル・ハラスメントの問題を主演を務めるシャーリーズ・セロン自らがプロデューサーを務め、見事に映像化。これは「フィクション」か「ドキュメンタリー」か…、それとも…?
詳しくはこちらをご覧ください。
この映画は「スカッと」じゃないぞ!
source:https://www.graziame.com/culture/film-music/bombshell-is-the-metoo-film-everyone-is-talking-about
とにかく今回の記事で伝えたいのはこの映画は「スカッと」するような映画ではないということです。
なんとなく、題材がMe tooやTime's upなので、最終的に悪い奴が負けて、セクハラ根絶やったぜ平和!いえ~い!みたいな映画なのではと思ってしまうと思うんですが、この映画はそんな安っぽいどっかのテレビ番組とは違うんですね。それならそのテレビ観てればいいわけですしね。
この映画が伝えたいのは「セクハラの現実」なのです。セクハラというものはこれまで幸運なことに全く目にしてこなかった人、経験してこなかった人にとってはテレビや雑誌、ネットで見るフィクションだと思います。ですが、これは紛れもない現実であり、現実なのでそう簡単には終わってくれないのです。これがこの映画が伝えたいことなのです。
つまりは、Me tooやTime's upというムーブメントが起こって、セクハラが悪いことだと世間的により強く認識されて、「よかったね」と終わらせていいものではなく、セクハラの被害に遭った人はどんな苦しみや怒りを背負ってきたのか、そしてそれらとどう向き合ってきたのか、そしてセクハラがどれだけ醜いことなのか、それを個人個人が目にして、考える必要があるのだということを伝えているのですね。
こちらのシャーリーズ・セロンのインタビューでもこの映画のメッセージ性について語られているので、もしよろしければ!
なのでこの映画をスカッとしたい!という気分で観に行くとかなり消化不良になってしまうと思いますのでスカッとしたい人はそういうテレビ番組を観てくださいね。
公然と行われる暴力だ
source:https://www.denofgeek.com/us/movies/john-lithgow/284938/john-lithgow-became-roger-ailes-bombshell
セクハラ、というカタカナ4文字で表してしまうとなんと軽い響きなのでしょうか。
私は高校生になるまでセクハラというものはフィクションだろうと思っていましたが、年を重ねるごとにセクハラは現実だし、年を重ねるごとにひどくなっていくような気がします。
今回の題材になっているFOXニュースのセクハラ被害は本当に最悪です。誰も止めることができないほどの権力を手にした男が、権力に従わなければ夢の職を諦めなければならない女たちをカモにして自分が好きなように性奴隷にしているわけですから。セクハラなんていうカタカナにしてる場合じゃないですよ。これは奴隷です、奴隷。21世紀の先進国でひどい話です。
この映画がすごいのはもう本当に腸煮えくりかえるんじゃないかな、と思うくらい気持ち悪いんですよ、このおっさんが。「スカートをもっと短くしろ」とか「(女性キャスターの)脚がよく見えるようにテーブルはガラスにしろ」とかほんと気持ちが悪すぎてボクシング始めようかと思いました。このおっさん殴るために。はい。
もっとも気持ち悪かったのはやっぱりマーゴット・ロビーが「2階」に行く機会を得たシーンでしょうか。あのシーンはもうほんとマーゴット・ロビーと一緒に泣きそうになっちゃいました。私なんのためにキャスターになったんだっけ、こんなおじさんの奴隷になるためだっけ?とかセリフにないのに彼女の苦痛な叫びが聞こえてくるようでした。「君の忠誠心を見せろ」とか言ってくるんですよ。ほんとおっさんは自分のことを正当化するのがうまいですね。
行動に出るのは難しい、でもサイレントマジョリティは怒っていないわけじゃない
source:https://www.theatlantic.com/entertainment/archive/2019/12/fictions-bombshell-movie/603982/
さて、この映画の予告を見るとなんとなく女性VS男性のような簡単な構図が繰り広げられているような印象を受けますが、この映画はそんな簡単なものではありません。
権力を武器に性暴力を簡単にふるってくる人々と、それを見て見ぬふりをする人々、そしてそれを訴えたい人、許してはいないが声を堂々とはあげられない人、そして声を出す勇気がない人、それぞれいろいろな立場の人間がいて、そして性暴力に対してみんなで力を合わせてがんばろーみたいなお話しではないのです。
ただ、性暴力に対して真正面からNOを突き付けられない人でも、一度セクハラを目にしていれば、経験していれば、それに対して怒りと悲しみと苦しみを背負っているもので、それに少しのきっかけさえあれば、それぞれが少しの行動に出れば、権力を倒せるかもしれない、そんなことを描いています。
この映画がすごいのは、ドラマチックにこの出来事を描きすぎずドキュメンタリーのようなカメラワークを挟ませながら、ドラマ映画としてもきっちりと作品として仕上げることでこの女性たちの心情を見事に描き切っていることだと思います。あのバランスのいびつさがセクハラのゆがみといやらしさにすごくマッチしていて、観ていてドキドキするので、とてもいい演出でした。
まとめ
というわけで今回は『スキャンダル』のお話をしました。映画の話というよりセクハラの話になってしまいました。でも本当におもしろかったです!
ロンドンに住んでいるのでロンドンで観たのですが、隣で観ていたご婦人の反応がよすぎて面白かったです。セクハラが行われるたびに「Ugh...」と言っていたり、登場人物たちがセクハラのおっさんを悪く言うと「Yes!」と言ったり本当によかったんですが、最後のあの文面を見た瞬間に頭を抱えて「No...!」と叫んだときは私も同じ気持ちでした。
この映画は気持ちがよくなる人はいないでしょうが、絶対に観るべき映画だと思います。今、この映画を観て、マジで私たちの代でセクハラをしっかり犯罪にしたい。めっされよセクハラ。
ぜひセクハラとはなんぞや、とかセクハラってフィクションでしょ、と思ってそうな人に観てほしいですね。キャバクラ嬢とか同伴のときにおっさんとこの映画観てくれないだろうか。(同伴ってよくわかってないけどそんなことできないですかね。とにかくよろしく頼みます。)
主題歌はビリー・アイリッシュの「bad guy」でした。最高ですね。