本日の映画
今回は、パルムドール賞を受賞したことでも話題の是枝監督作品『万引き家族』についてお話ししていきます。
source:是枝裕和監督 最新作『万引き家族』公式サイト
あらすじ
父は日雇いの工事現場で働き、母は今にも潰れそうなクリーニング屋のパート、姉は学校も行かずにその若さを売っていた。祖母の年金をあてにするような貧しい「家族」はまだ幼い息子とともに家族ぐるみで行っている家業があった。それは、人に気取られずに盗みを働く、「万引き」であった。父が盾になり、その陰で息子がこっそりと商品をかばんに入れる。そんなことがこの家族では当たり前に行われていたのだ。
その「家業」の帰り、父と息子は寒空の下1人遊びをしている小さな女の子を見かける。親子はその前にもこの女の子が1人で家の中にも入れてもらえずにいるところを見かけており、父はたまらず女の子に話しかけてしまう。「なぁ、コロッケ食うか?」
父は女の子が可哀想になり、彼女を「拾って」家に連れて帰ってしまった。夕飯を食べさせたら帰らせるつもりだったのだが、女の子の体が傷だらけであることを知った一家は、やはりこの女の子が虐待を受けていることを確信し、そのまま家に住まわせてしまうことにする。「ねぇ、これ誘拐だよ」「身代金も要求してないし、監禁もしてない。これは誘拐じゃない」そんなでたらめな言い訳をして、家族は女の子を「家族」の一員にしてしまうのだった。
偽物の「家族」はこうして長くはない幸せを手に入れた…。
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感想
今一番話題の映画『万引き家族』を観てきました。この映画、演者の顔ぶれを見た時から絶対に観なければならないと思い、ずっと楽しみにしていた作品でした。だってリリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、池松壮亮、樹木希林ですよ!!!観ない手がないですよ!
しっかし、絶対面白い作品に決まってると思っていた作品が見事にパルムドールを獲っちゃうんですもん!こんなにうれしいことはなかったです!そしてさすがにパルムドールを受賞してしまうだけあって、個人的な(現時点の)生涯ベスト映画になってしまいました…!なんだってこんなに面白いんだ『万引き家族』…!と面白さに打ちひしがれてしまいました。
では以下、『万引き家族』のおすすめポイントです!
⑴邦画にありがちな寒い演出の一切が排除されている
source:『万引き家族』、各世代を代表する女優2人が鍵に 是枝映画初出演の安藤サクラと松岡茉優の煌めき|Real Sound|リアルサウンド 映画部
私がこの映画で一番すごい!と思わされたのは、「セリフが最小限で、最大限の意味を持つこと」でした。最近の邦画を観ていて残念に感じていた「セリフで何でもかんでも説明してしまう」という風潮に、見事に『万引き家族』はNOを突き付けたと言いますか、してやったと言いますか…。とにかくすべてを説明しないのに確実に観客には伝わると言う表現方法を取っていて、そうそう!それが映画だよ!!と膝をバンバン叩きたくなってしまうほど素晴らしい表現方法であったと思いました。
是枝監督といえば「家族」をテーマにした作品が多く、私は「家族」をテーマにした作品はあまり得意ではないので、実はこの作品が初めての是枝作品でした。というのは、やっぱり家族というものがテーマになると、絶対サムイセリフが入ってしまうと思うんですよ。「あなたのことをこの世で一番愛してる」とか「あなたがいてくれたから私は今まで生きてこれたのよ」みたいな重くて寒いセリフが…。もちろん、そのセリフが効果的に働いているのであればいいんですけれど、たいていそういうセリフってわざわざ言わなくても今までの話の流れ的にわかってるよ、みたいなことが多くて辟易してしまうんです。
しかし『万引き家族』はそんなことは一切言いません!それは「家族」という人間関係の複雑さを是枝監督が心の底から理解しているためだと思います。わざわざ愛を語らなくても愛をわかってくれる、そしてわざわざ語ることがこの世の誰よりも難しいし恥ずかしい、そんな家族を相手にした言葉だからこういう形になるのだろうと是枝監督が繊細に脚本を練られたのではないかと私はそんな風に感じました。
そしてこの作品がフィクションでありながら、とてもリアルに見えるのはセリフ回しに無理がないからだとも思います。本当にこの作品のキャラクターたちがこの世に生きていたらどんな人たちなのだろう、と掘って掘って掘って行った結果あの無理のないセリフたちにつながっていくのだと思うともうその才能に圧倒されます。素晴らしい。
⑵演者の才能がほんの一瞬一瞬にちりばめられている
①リリー・フランキー
以前私は映画『SCOOP!』の記事を書いた際に
リリー・フランキーという役者の演技を観て、恐怖を本当に心の底から感じてしまって恐ろしかったというようなことを語りましたが、今回のリリー・フランキーはこれまたすごかったと言わざるをえない!
『SCOOP!』のリリー・フランキーは、言うならばやばいことはわかっていたはずなのに、私たちが想像するやばさを何十倍も上を行ってしまうような人だったのだと本当にいきなり恐怖の穴に陥れられるような感覚の恐怖だったのですが、今回の『万引き家族』では、普通ではないことはわかっているけれど、いい人なんだろうな、と安心しかけたところで一瞬その狂気を見せ、その後また先ほどの優しい雰囲気の人に戻るというような、恐怖をまさに垣間見せるという役どころでこれまたリリー・フランキーにしかできないという役を見事に演じきっていたように感じました。
私が今回のリリーさんの演技で一番見てほしいと思うのはお風呂場でのシーン、海で祥太に「男だから仕方ない」という話をするシーン、そして何よりラストシーンと車上荒らしのシーンですね。とにかく全編を通してこのリリー・フランキーという役者のやばさしかないのですが、今挙げた4つのシーンが個人的にはもうこの人の才能がほとほと恐ろしい!と思ったシーンでした。特に車上荒らしからのラストシーンのことを思うととんでもない気持ちになってしまいます。
ちなみにこのとんでもない役者、役作りなんてしないんだそうで*1。恐ろしいなぁ。その才能が。
②安藤サクラ
source:映画『万引き家族』完成披露試写会舞台挨拶レポート | Cinema Art Online [シネマアートオンライン]
きねまないと一押し日本女優安藤サクラさんです!!!!
今更ですが、自分なんつータイトルつけているんだと思いますね、この記事に対しては。割とすきではあるんですが。
さて、そんな私一押しの女優安藤サクラさんはやっぱり私たちの期待を裏切りません。もうこの人にかかればそこはフィクションの世界でも「現実」になると言いますか、この人はフィクションを「リアル」にする力を持っていると思うんですよね。
特に私がすきだ~と思ったのは、商店街で呼び止められてうれしくなっちゃいつつも、祥太に「そんなのは全然どうでもいいんだから」と優しく言うシーンでしたね。あのシーンをあんなに繊細にそしてリアルにそして切なく演じきれる女優はもう日本中どこ探しても安藤サクラだけだよ!って本気で心の底から思います。すごいよこのひとは。
今回安藤サクラさんが演じたキャラクターはかわいらしい人だなぁと私は思ったんですけれど、そのかわいらしいキャラクターから逸脱することなく見事にこのキャラクターの根底にあるすさまじさというか強烈さとでも言いますか、異常性とでも言いますか、とにかくそれをまたチラ見せさせるのがうまい。クリーニング屋での話し合いのシーンなんかはまさにそれでした。さらっと無理なく「殺す」という言葉が言える女優、すごい。
③松岡茉優
今最も演技がうますぎてこの世を征服することも可能なのではないかと思われる女優松岡茉優!演技もすごいけど本人のキャラクターも強烈でかなりすきな女優さんです。
さて、そんな松岡茉優さんが今回演じるのは「JK見学店」でアルバイトをする女の子。正直私のなかで松岡茉優さんって陰キャ*2だったので、「エッ今回そんな奔放な女の子を演じるのか」と最初は戸惑っていたんですが、話が進むうちに「あぁ、これは松岡茉優じゃないと演じきれない役だったな」と妙に納得させられてしまいました。
しかし今回の松岡茉優ちゃんはめちゃくちゃに「カワイイ」とか「現代風」とかを意識した演技になっていて驚きました。昨年12月公開だった『勝手にふるえてろ』でも彼女はある意味現代風の女の子を演じていたものでしたが、それとはまた異なる女の子をしっかりと演じていて、声の出し方とかからもう全く異なるんですよ。例えば私は「問題の多いレストラン」で松岡茉優さんを知って、
それからいくつか彼女が出演している作品を観ていますが、そのすべてにおいて演技のアプローチが全く異なるんですよ。しかも、それに無理がないというか、やりすぎていないというか、とても説得力のある、現実味のある演技とでも言いましょうか。それこそ『勝手にふるえてろ』なんてちょっと間違えたら完全にギャグ映画になってしまうところをこれがリアルな「イマドキ女子」としっかりと描けたのは彼女の演技力、表現力が素晴らしいからという部分も相当大きいと個人的には思っています。
そんな彼女が演じる今回の複雑な「イマドキ女子」。もうキャラクターがそこで息づいているのです。どこにフィクションがあるのかわからない。鑑賞している間は松岡茉優という存在は消えて、アキというキャラクターがそこに生きているだけなのです。その圧倒的な演技力にスクリーン越しに白旗を揚げてしまうレベルです。
④城桧吏
今作は子役2人の演技も注目されていますが、私が今回こちらで推したいのは息子・祥太を演じた城桧吏(じょう・かいり)くんです。インタビュー映像なんかを観ていても、しっかりした子役さんだなぁと思うくらいで、特に突出したものは見られないんですが(いやお顔は最強にキュートだと思うけど。在りし日の薮宏太かと思ったけど。)、今作を観て腰を抜かしましたよ私は。2006年生まれの11歳ってもうこんな演技できてしまうのかと。もう彼の演技ってほんとに自然なんですよ。冒頭のシーンからもう「なんじゃこの演技は」といい意味で言ってしまいたくなるほどの自然さ。11歳ですよ!11歳!
公開が始まる前に、城くんは第二の柳楽優弥になるだなんてコメントを見たのですが、これは確かに柳楽優弥レベルの”やばい”俳優になってしまうかもしれないぞと期待に胸を膨らませてしまいます。
私がかなり好きだったシーンは、お父さんの家で2人で寝転がって質問するシーンでした。あのシーンはもうこの親子の複雑さだとか、人間ってめんどくさいなとか、愛とか絆とかいろんなことを考えさせられるのにセリフは最小限しかなく、なんだってこんなに色々考えさせられるんだってそりゃ演出やカメラの撮り方とかもあるけどまず一番はリリー・フランキーさんと城くんの織りなすあの気まずい雰囲気がスクリーンを越えてビシビシと観客まで届いているからだと思うのです。あのシーンから続くバスのシーンなんかもうセリフなんかないのに城くんがバスに乗っているだけでもうボロボロと泣きたくなってしまうんです。今後も活躍が超期待されてしまいます。これからは城桧吏という俳優に大注目していきたいです。
⑶この世の何が「正解」で何が「不正解」なのか
この「家族」がすることに、世間でいうところの「正解」なんてものは何一つとしてないのかもしれません。ただし、この人たちは人が持っていなきゃいけない「何か」を確実に捨ててはいなかったと思います。確かに、常識はないし、法は犯してるし、どこか不気味な家族だったかもしれないけれど、少なくとも虐待されている(であろう)女の子を寒空から救ってあげるという心はあったわけです。もちろんそれもまた正しい行いかどうかはわかりません。もしかしたら彼らの早とちりで、女の子は自ら外に出ていたのかもしれない。でもたとえそれが結果として誘拐になったとしても、洗脳と思われたとしても、「家族」はたった一つの命を救うという決断をあの夜にしたわけですよ。これって人としてすごいことだと思いませんか。
他にもこの「家族」はとんでもないことをいくつもやらかしていますが、その一つ一つにはちゃんと人間味のある理由があって、その一つ一つに私は心を揺さぶられてしまいました。法やこの世のルールに照らし合わせればそれはいけないことだけれど、私たちはこれを「間違っている」と本当に言えるだろうかとしばらく考えてしまうと思います。ただ「間違っている」のではなく、この「間違い」を引き起こしてしまったのは本当にこの「家族」だけが悪いのでしょうか。「正しく生きる」誰かの代償に誰かがなっているだけなのでは…など、本当に色々ぐるぐると考えました…。
まとめ
一生忘れられない一本となった『万引き家族』でした。こんな作品を観ることができて、私は本当に幸せ者だなぁと劇場でエンドロールが流れている中で感傷に浸ってしまいました。
先日鑑賞した『フロリダ・プロジェクト』も、アメリカ白人貧困層の話で、貧困でありながらその中で幸せをつかむために決してほめられたことではないことをしながらも生きていく家族というものが描かれていたので、この二作を比べて、深刻に現代の社会問題になっている貧富の格差というものを考えることとなりました。
source:‘The Florida Project’ Review: The Lower Depths in an Orlando Motel – Variety
『フロリダ・プロジェクト』も『万引き家族』も何が素晴らしかったかって、特に説教臭いわけでもなく、今この瞬間も続く社会問題をそのまま切り取るように描いているということなんですよね。下手な説教なんかなくとも、その現状を見せられて、受け手が何をどう考えるかと言うところに一任しているというのがまさに映画というメディアとして良い姿だなぁなんて偉そうにも思ってしまいました。
そして今作『万引き家族』で私が強烈に覚えているのが「ねぇシャンプー買ってきた?メリットじゃないよね?」というセリフでした。これは松岡茉優ちゃん演じるアキが言うセリフなのですが、本当にリアルでも言いそうなセリフでびっくりさせられました。メリットを買ってこられたら確かに年頃の女の子は嫌だよね…と妙に納得させられてしまうというか、理解してしまうというか。こんな細かなセリフにも驚くほど「自然さ」が織り込まれていて、ホントに恐ろしい作品でした、『万引き家族』。胸を張って言えます、恐ろしいほどお勧めです!
*1:
—基本的に役作りをしないで現場に入ると過去のインタビューでも語っていますが、柴田治を演じる上で何か準備したことはありましたか?
プロットをもらってからやるまでが長かったっていうのもあるかもしれないけど、今回は色々考えましたね。でも、最初に「あ、自分の声がこの役に向いてないな」って思ったんですよ。さっき (樹木) 希林さんと一緒に取材を受けていたんですけど、「やーなんかね、あんたの声が、どっかに知的な要素が入ってて、なんかちょっとさー」みたいなことを言われて。「ああこれ、俺がずっと考えてたことだな」って。