きねまないと

最近映画が好きになった20代が素人目線で好き勝手に映画の感想を綴るブログ。

この世の善と悪に簡単に二分化できない辛さを描いた作品『his』

 

本日の映画

今回は今泉力哉監督の『his』のお話をします!

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source: イントロダクション・ストーリー|映画『his』公式サイト|絶賛公開中!新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

 

 

あらすじ

東京から出てきた井川迅は一人で田舎暮らしを行っていた。物々交換と自給自足で生計を立て、近隣住民とも打ち解けてきたある日、自宅の前に見知らぬ少女がいることに気が付く。この子はどこから来たのだろうと思っていると、そこにはかつて迅が交際していた日比野渚が立っていた。

渚は現在妻とは離婚調停中で交代で娘・空の面倒を見ているのだと言った。迅はかつて自分に一方的に別れを告げた渚が目の前に現れたことや、渚がゲイだと思っていたのに女性との間に子どもを作っていたことに衝撃を受けながら、渚の言われるがまま、しばらく渚と空を滞在させることを許してしまうのだった。
慣れない子どもの世話や、忘れられない恋人の登場に頭を悩ませる迅だったが、だんだんと二人との生活を気に入っていく。しかし、そんな三人の前に渚の妻・玲奈が現れ、空を東京に連れ戻してしまう。

迅は渚に「空ちゃんと3人で暮らそう」と提案し、迅は渚と共に離婚調停に臨むこととなるのだが……。

 

詳しくはこちらをご覧ください。


映画『his』予告編

 

この世には「悪役」なんていない

この前の記事とまるっきり同じ構造になってしまって申し訳ないなと思うんですけど(まぁ大抵お前の記事は同じ構造だよと言われたらそれもそうなんですけどね)、皆さんは『チョコレートドーナツ』という映画をご覧になったことがあるでしょうか。

 

slhukss1.hatenablog.com

 同性愛者の男性カップルが子どもを育てるとざっくりくくれば『his』と同じ題材を扱っているこの作品。できれば『his』を観る前に観ていただきたくてですね……。なんでかというと、『チョコレートドーナツ』を観た後だと『his』は光の物語に観えてしまってもう「よかったねえ~~~~(号泣)」の気持ちが止まらんのですよ。。。だからみんなクソデカ感情を抱えるために『チョコレートドーナツ』を観てくれ~~!!

にしても本当によかったです、『his』。宮沢氷魚が同性愛者の役?!?!?!なんかもうそれ絶対消えてしまいそうな役では?!?!?消えてしまいそうな宮沢氷魚観たい!!!!!ちなみに関係ないんですけど、宮沢氷魚って米津玄師の「Lemon」の擬人化みたいじゃないですか?何を言ってるんだって言われたら何を言ってるんだかわかんないんですけど同意がほしい。


米津玄師 MV「Lemon」

はい、でまぁそんなよこしまな気持ちを抱えてみた今作だったんですけどほんとに何もかもが素晴らしくてですね。たぶん田舎に本当に住んでる人とかからすると「田舎をなめるな」「田舎で同性愛者がバレたらこんなもんではすまんぞ」という村八分のやばさを説きそうになると思うんですけど、私はゴリゴリに東京住まいなので「まぁこんな村もあるのかもしらんな」くらいで受け止められたので今作についてはほぼすべてがすき~!!!って感じでした。

まずこの映画のMVPは誰だっていう話なんですけど、もう圧倒的にこの方。

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source: 今泉力哉監督×宮沢氷魚×藤原季節『his』男性同士の恋愛と家族を描く|「人の弱さやずるさ、不器用さにはずっと興味がある」監督インタビュー - 骰子の眼 - webDICE

 藤原季節さん(左)……もよかったんですけど、空ちゃん役の外村紗玖良ちゃん(右)!(漢字すげえ!)もうこの空ちゃんがしゃべる度にめっちゃかわいいんですよ~~~!「はぅ~~~!空ちゃんかぁいいよ~~~!!!」ですよ。ひぐらしも鳴きます*1

とにかくかわいいんです。まず声がかわいい。かわいいのだ。しゃべった瞬間に思うが早いか「かわいい」の4文字が頭に浮かぶのです。そしておそらく演じている紗玖良ちゃんのアドリブなのか天才的な演技力なのかはわからんのですが、とにかく選ぶ言葉が全部かわいいのだ。なんかよくわからんけどかわいいのだ。「だいっ!せいっ!こ~~!!!」とかはがっつりセリフだとわかるけど、とにかくそれでさえかわいいのである。俺も空ちゃんのために片手で卵割って「だいっ!せいっ!こ~~~!!!」ハイタッチをキメてえ~~~!!!!となる。

こんなかわいい子が東京のクソみたいな町を1人で歩くシーンがあるのだが、そこなんかもう「ダメでしょ空ちゃんかわいすぎて4秒で誘拐されるでしょ……ちょっと大人は何をしてるの…?????幼女ちゃんと守って……」とガチギレしながらいつの間にか抱いてしまった空ちゃんへのクソデカ庇護欲をぶつけてしまいました。ほんと観ないとわからんと思うのでほんとみなさん観てください。

ちなみにこの空ちゃんは物語の中で言うまでもなく重要な存在なのですが、空ちゃんの何気ない一言に突き落とされたり、すごく救われたりするのがなんだかリアルだなと思いました。創作物の子どもっていいことしか言わなかったりすることがあるけど、子どもってよくわかってないようでよくわかってるって存在なので要らんことも言うし、すごくうれしい子とも言ってくれる存在だと思うので、このような描き方はすごく好みでした。

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source: 戸田恵子、宮沢氷魚&藤原季節と3ショット「ただの同性愛の映画じゃありません!」 - Ameba News [アメーバニュース]

 そして私が個人的に勝手に上がったのは戸田恵子さんが渚側の弁護士として出演されているんですけど、さすが俺たちのアンパンマン……!いつだって味方……!と感動してしまったんですよね。絶対勝てるじゃんなぁこの裁判……。(実際裁判がどうなるのかは観てみてください)

でも戸田さんの演じる弁護士がすごく真摯なんですよね。同性愛はまだまだ認められていないという現実のことは冷静に受け止めながらも、実際に育児を行っていたのはあなた(渚)なのであれば裁判は有利に進められると思いますよ、と渚を前向きに励ましていくんですよね。劇中では触れられていないですけど、こんな裁判を引き受けるくらいなので、彼女自身今の同性愛者の人を取り巻く環境を変えたいという思いが強いのかもしれないですね。

そう、私がこの作品ですごくいいなーと思ったのが、迅と渚を積極的に応援しなくてもその二人を受け止めてくれる人の存在がきちんと描かれていたことなんですよね。こういう同性愛者を描く作品ってどうしてもやっぱり社会にはじかれてなにくそ!って作品になりがちなんですけど(まぁ社会がまだまだ理解できてないので仕方もないが)、世の中には同性愛者を否定しない人や、支援する人っていうのは少数であっても絶対いて、その人たちをもっと描く作品があってもいいんじゃないかなーって思ってたのでうれしかったです。

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source: 『his』ポスター・新場面写真解禁|『愛がなんだ』『アイネクライネナハトムジーク』の今泉力哉監督が二人の青年の恋愛を描く | シネマズ PLUS

それから渚の妻である玲奈(演じているのは松本若菜さん!『電王』でもおなじみ!)が完全な悪役として描かれるわけでもないのがすごく全員に対して真摯だなとおもったんですよね。この映画って悪役っていうのはいなくて、不幸にも寄り添えなかった二人と、一緒じゃないと生きていけない二人の複雑で悲しくてあたたかな愛の話としてしっかりと描かれてるんですよね。だから玲奈の側についてる弁護士のおじさんだって仕事だからやってるだけ感がちゃんと描かれてて、やりたくて同性愛者をいじめてるわけじゃないんだよってのがわかるわけですね。(まぁ同性愛者に対しての偏見はあるのかもしれないけど)

で、この玲奈っていうキャラクターもすごく可哀想な人で、愛した人が実は自分が一生添い遂げるためにはすごく困難なセクシャリティを持つ人だったっていうことがわかったらきっとものすごく辛いと思うんですよね。だってじゃあ私が愛していたときあなたは私のことを愛してなかったの?私は世間を欺くために利用されてたの?とかいろいろ考えちゃうと思うんですよ。そんなぐるぐるした思いを抱えながら自分のキャリアのためにも仕事は続けないといけない、親権も勝ち取りたいから親として今までやってこなかったこともやらなければならない、今まで折り合いの悪かった親ともこれからは仲良くしていかないといけない、とか。迅と渚の二人を中心に置きながら彼女の内面をここまで描くのってすごく難しいと思うんですけど、うまくやってみせるよなぁ今泉力哉監督……。何者だよ……。すげぇよ……。もう渚も迅も玲奈もみんな幸せになってくれよと思いながら最後は誰の味方をしてるのかよくわからん状態になりながら観てました。みんな幸せになれ……。

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source: 『his』宮沢氷魚が初恋の彼・藤原季節と幸せ溢れるクリスマスを過ごす、ハッピーオーラ全開の場面写真解禁! ―1/24公開 | anemo

いっちばんすきだったのはこの映画の着地点だったのでマジで何にも言えないのが歯がゆかしいんですけど、結果的にみんなの空ちゃんのお願いがここでかなったんだなぁと思うともうそれだけでよかった……と静かに涙を流す以外にないんですわ。ほんともうみなさん『his』を観てくれ。

 

まとめ

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source: 宮沢氷魚が語る、LGBTQが題材の『his』と自身が感じたマイノリティの葛藤(画像8/12)|最新の映画ニュース・映画館情報ならMOVIE WALKER PRESS

 ちなみに上で入れるところがなかったのでこんなところで話しますが、松本穂香ちゃんかわいい~!彼女の素朴だけど華やかだけど素朴な感じが今回の役にぴったりすぎてすきでした。彼女の目線に立ちながら『his』を観たら後半は涙が止まらないですしたぶん3週間くらいは引きずります。幸せになってほしい。

さて、そんなわけで今回は今泉力哉監督の『his』のお話をしてきました!実をいうとまだ今泉監督の『愛がなんだ』を観れていないので近々そちらも観てみたいと思います!

にしても最近はLGBTQ+を題材とする作品が増えてきましたね。題材にするだけじゃなくて、多くの人の関心と理解が高まるといいですよね。ちなみに今度からアセクシャルを題材にした漫画も出たそうなので、さらに様々なセクシャルマイノリティへの理解が進むといいなと思います。

 

*1:ひぐらしのなく頃に』という作品に出てくる竜宮レナというキャラクターの口癖。「はぅ~」「かぁいいよ~」などアキバ系ヲタクという世間一般が思い描くようなヲタクの好きなキャラの特徴を詰め込んだようなキャラクター。今度再アニメ化が決まっているのでまた中学生の中にこのようなしゃべり方をする子が出てくるのかと思うと胸アツ。